俳句誌「栴檀」について 辻 恵美子

(平成14年5月栴檀創刊号より)

平成9年6月、細見綾子先生がお亡くなりになり、それから4年後の平成13年11月5日、澤木欣一先生がまた帰らぬ人となってしまわれました。そして昭和20年から55年間続いた「風」は平成14年3月号を以って終刊となりました。  この大事の茫然自失の時を経て、このたび新しい俳句雑誌「栴檀」を創刊することになりました。  私たちはこれまで、澤木、細見両先生から多くのことを学んできました。  澤木先生の掲げられた俳句の文学性(固有性、独立性)即物具象の俳句。また細見先生の純粋な詩精神、柔軟で自由な発想。そしてその根底に風雅の道の基本である「俳句のまこと」を据えるということ。これらのことを両先生はその全生涯をもって示されました。まことの俳句はまことの人間なくしてはあり得ません。人間のまことが人の心を打つ俳句を生ましめるのだと。  両先生のそういった高邁なる俳句精神を尊び、かつ拠りどころとし、「栴檀」にて新しい展開を目ざします。  栴檀は最も好きな木の一つです。幹の直径1メートル、高さ25メートルにもなる木なのに、花はこの上もなく優しくやわらかです。青空に溶け入りそうな薄紫が風を受けて湧き立つさまはたとえようもありません。花も葉も枝も、五月の明るい大気とともに芳しい、そんな木の名を誌名と致しました。


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